太陽光発電の出力抑制のルールはいくつあるの?実施実績と軽減方法も一緒に解説

今野 彰久

著者 今野 彰久

スマートエネルギー事業部の部長です。
自身でも太陽光投資をしているため、投資する方の目線でのご紹介を得意としています。

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太陽光発電の最大のメリットは、固定価格買取制度によって10〜20年の長期間、安定的に売電収入を確保できる点です。


この太陽光発電のメリットである売電を、不能にしてしまうのが出力抑制です。出力抑制は、電力会社が需給バランスを守るために、太陽光発電の出力を強制的に抑制する制度です。


そんな出力抑制について調べてみると、「新ルール」や「30日ルール」、「360時間ルール」などさまざまなルール名称が出てきます。ルールが多すぎて、それぞれの内容や最新のルールがどれなのかなど、混同されている方も多いのではないでしょうか。


そこで本記事では、出力抑制のルールを明確にしたうえで、出力抑制の実施実績や軽減方法についても一緒に解説していきたいとおもいます。

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1.太陽光発電と出力抑制のルールの関係

パネル

実は出力抑制の対象となっている発電所は、太陽光発電だけではありません。電力会社が保有している発電所すべてが、出力抑制の対象となっています。

そのため、全発電所で共通の基本的なルールと、太陽光発電特有のルールがありますので、それぞれ整理して解説していきます。

(1)全発電所共通の出力抑制の基本ルール

基本的な出力抑制のルールは、優先給電ルールに基づいて実施されます。優先給電ルールとは、出力抑制をかける優先順位をその発電所の特性に合わせてあらかじめ決められたルールです。

優先給電ルールによって、出力抑制は大まかに次のような順序で実施されていきます。

  1. 火力発電所
  2. 揚水発電所
  3. 大型バイオマス発電所
  4. 太陽光発電所、風力発電所
  5. 原子力発電所、水力発電所、地熱発電所

上記からわかるように、太陽光発電に出力抑制の順番が回ってくるのは、火力発電所や揚水発電の出力抑制を行った後でもまだ、電力需要量より電力供給量が上回ってしまう場合です。

需要

出所:資源エネルギー庁

では、この優先順位を決めている発電所の特性とは一体どのようなものなのでしょう。それは、発電量を調整できる時間軸です。

火力発電や揚水発電は、比較的に短時間でもフレキシブルに発電量の調整が可能です。つまり、発電開始と停止のいずれも他の発電所に比べると短いスパンで切り替えができます。

逆に原子力発電所や水力発電所といった電源は、短時間での発電量の調整に向いていません。テレビニュース等で原子力発電所の再稼働が話題になりますが、原子力発電所は安全な運用をするために発電開始や停止に時間をかける必要があるのです。急激に原子力発電の反応を進めて発電開始や停止、出力の調整をすると、エネルギー暴走を起こし重大な事故へつながるためです。

そのため原子力発電所や水力発電所は、ある一定の期間中は固定的に稼働をさせるのが最も効率的で、長期固定電源やベースロード電源と呼ばれています。長期固定電源で賄えない部分を、火力発電所など即応性高い電源で補っているのです。

このように、電力供給は電力需要が刻一刻と変化するのに合わせて、各発電所の特性を活かした形で、各発電所の供給量を調整しています。

構成

出所:電気事業連合会

もし仮に、出力抑制を原子力発電所から優先的に行ったとしましょう。

その場合、電力需要が急に増えて電力供給量が不足しそうになったとしても、原子力発電の再稼働は間に合いません。そのため発電開始が早い火力発電所の出力を上げることになりますが、そうすると結果的に1日あたり1.3億円も国民負担が増えてしまいます。

電力の安定供給と効率的な電源運用のため、この給電優先ルールは定められているのです。

(2)太陽光発電特有の出力抑制ルール

上記の基本ルールに従って太陽光発電に出力抑制の順番が回ってきたときには、太陽光発電特有の出力抑制ルールも設定されています。それが、全部で次の3つです。

  • 旧ルール
  • 新ルール
  • 指定ルール

当初は旧ルールで運用がスタートしましたが、2015年1月に再生可能エネルギー特別措置法が一部改定されたことによって、新ルール・指定ルールへ変更となりました。

ルール名称でいえば、他に「30日ルール」と「360時間ルール」の2つもあるのですが、上記ルールの別呼称です。名称も併せて、旧ルールから新ルール・指定ルールで変更内容を詳しく見ていきましょう。

①旧ルールは大型の太陽光発電だけだった

出力抑制が制定されたときの、最初のルールです。太陽光発電特有の出力抑制ルールで注目すべきポイントは、「対象設備規模」と「抑制時間」です。

まず、対象設備規模に関してですが、旧ルールで対象となったのは設備規模が500kW以上の大型の太陽光発電でした。そのため旧ルールにおいては、いわゆるメガソーラー規模の太陽光発電以外は出力抑制の心配はありませんでした。

次に抑制時間に関しては、電力会社は太陽光発電事業者に対して年間30日を上限に無補償で出力抑制を要請できました。「30日ルール」とは、この無補償の上限期間30日からいわれていた旧ルールの別称です。

現在このルールは使われておらず、2015年1月25日以前に接続申込みをされた太陽光発電のみが旧ルールの対象です。

②新ルールへの変更で対象設備が太陽光発電すべてに

旧ルールから新ルールへの変更に伴って変わったポイントも、「対象設備規模」と「抑制時間」です。

まず対象設備規模は、旧ルールの500kWから500kW未満の太陽光発電もすべて対象となりました。もちろん、10kW未満の住宅用太陽光発電も例外ではありません。

ただし、住宅用太陽光発電に対しては優遇措置が設定されています。10kW以上の産業用太陽光発電に出力抑制を行い、それでもなお出力抑制が必要な場合にのみ、対象となります。

次に抑制時間に関しては、電力会社が要請できる無補償の上限期間が年間30日から年間360時間へ変わりました。この上限の抑制時間360時間から、新ルールは「360時間ルール」ともいわれています。対象となる太陽光発電が増えたことで、上限時間が緩和されたものと思われます。

ところが、新ルールの時間に関する変更点はもう1つあります。それが、指定ルールです。指定ルールとは、電力会社の接続申込みが接続可能量の上限を超えた場合、その時点から接続申し込みをした太陽光発電に対しては、無補償の上限期間なく出力抑制を要請できるというルールです。

この電力会社は、国から指定を受けた電力会社のみになっているため、指定ルールと呼ばれています。2019年6月現在、指定を受けている電力会社は、北海道電力、東北電力、北陸電力、中国電力、四国電力、九州電力、沖縄電力の7社です。

新ルールで無補償の上限時間が360時間と減ったものの、指定ルール対象の管轄電力会社内であったら、申込みタイミングによっては上限時間なく出力抑制の対象になるリスクがあります。

(3)電力会社によって適用ルールが異なる

電力会社の管轄エリアによって、電力需要と供給バランスや太陽光発電の接続量は異なります。

また、指定ルールの対象かどうかによっても新ルールの適用範囲は電力会社ごとに異なり、加えて太陽光発電の設備規模によっても適用状況が異なります。混乱しないよう、電力会社ごとの出力抑制の状況を確認していきましょう。

①東京電力、関西電力、中部電力の出力抑制

この3電力会社は指定ルールの対象となっていないため、管轄エリアで出力抑制の対象となる設備規模のは500kW以上の大型物件のみです。ルールは新ルールの対象となり、無補償の上限期間は年間360時間です。

一方で、設備規模が50kW未満の太陽光発電は、出力抑制の対象外となっています。この3電力会社は、首都圏で電力需要量も多いため、他のエリアに比べると出力抑制の対象となる太陽光発電が少なくなっています。

②北海道電力、東北電力、中国電力の出力抑制

すべての太陽光発電が、指定ルールの対象となっています。ただし10kW未満の住宅用太陽光発電は、優先的な扱いとして10kW以上の太陽光発電が出力抑制の対象となった後に、対象となります。指定ルールのため、いくら出力抑制がかかったとしても補償はありません。

③北陸電力、四国電力、九州電力、沖縄電力の出力抑制

すべての太陽光発電が、指定ルールの対象です。指定ルールのため、上記の3電力会社と同様に出力抑制の時間に関係なく補償はされません。

④地域別の出力抑制ルールまとめ

上記の各電力会社、太陽光発電の設備規模ごとの出力抑制の適用状況をまとめると次のような表になります。

電力会社 10kW未満 10kW−50kW 50kW以上
北海道電力 優先的な扱い
(10kW以上と同様だが、10kW以上の出力抑制後に行う)
出力抑制あり
(年間360時間を超えても無補償)
東北電力 優先的な扱い
(10kW以上と同様だが、10kW以上の出力抑制後に行う)
出力抑制あり
(年間360時間を超えても無補償)
東京電力 対象外 出力抑制あり
(年間360時間までは無補償)
中部電力 対象外 出力抑制あり
(年間360時間までは無補償)
北陸電力 出力抑制あり
(年間360時間を超えても無補償)
関西電力 対象外 出力抑制あり
(年間360時間までは無補償)
中国電力 優先的な扱い
(10kW以上と同様だが、10kW以上の出力抑制後に行う)
出力抑制あり
(年間360時間を超えても無補償)
四国電力 出力抑制あり
(年間360時間を超えても無補償)
九州電力 出力抑制あり
(年間360時間を超えても無補償)
沖縄電力 出力抑制あり
(年間360時間までは無補償)

エリア別の出力抑制実施状況(平成30年7月12日以降に接続申し込みを受付けられた物件)

接続申込みのタイミングと電力会社ごとに適用されるルールが異なるため、各電力会社のホームページで最新の実施状況を確認しましょう。

2.出力抑制の実績と今後の実施可能性

実際に出力抑制は、どの程度実施されているのでしょうか。また、今後実施される可能性があるのかも気になるところです。

そこで、出力抑制のこれまでの実施実績と併せて、将来的な実施想定も把握したうえで適切に対処できるようにしておきましょう。

(1)出力抑制が実施されたのは九州電力だけ

実は2019年6月時点で、太陽光発電の出力抑制が実施された実績があるのは九州電力1社のみです。実際に九州電力で2018年度に出力抑制が実施された日数は、合計で26日となっています。

九州電力の発表によると、出力抑制のかかる対象の公平性を持たせるため、2018年度は1発電所あたりにかかる抑制回数は5〜6回までとしていたようです。

停止

出所:九州電力「九州本土における再エネ出力制御の実施状況について

また、出力抑制によって損失する電力量の比率、つまり出力抑制率を試算した結果、2018年度全体で0.9%だったということです。

もともと経済産業省では、「30日ルール」を最大限実施したときに出力抑制率が8%となると試算されていたので、それに比べるとまだまだ抑制量が抑えられているといえるでしょう。

2019年度に入ると、原子力発電所の再稼働による供給量増加に伴って、出力抑制の実施日数は4月が20日、5月が10日とすでに前年度合計日にせまる勢いです。5月の出力抑制実施日が少ないのは、原子力発電所の1基が定期検査に入るために稼働停止した影響と考えられます。

そのため点検終了後には、再度実施日数が増えると予想できます。

(2)他電力会社は将来的な出力抑制の実施を明言

九州電力以外の電力会社は、まだ出力抑制の実績がありません。しかしながら、将来的に実施される可能性があることをすでに明言している電力会社もあります。

たとえば、環境ビジネスオンラインの記事「2019年度、中国エリアも再エネ出力制御か? 中国電力が発表」にも記載されているように、他の電力会社も2019年度に出力抑制を行う可能性があることを発表しています。また、東北電力も2020年度以降で出力抑制がかかる可能性を表明しています。

実際に九州電力に次に出力抑制の可能性を発表していた四国電力は、2019年5月のゴールデンウィーク期間中に、太陽光発電による供給量が四国エリアの全需要量の88%に達したと発表しています。実際に出力抑制がかかることはありませんでしたが、約9割の使用電力が太陽光発電で賄われる状況にまでになったのです。

つまりは、これ以上に電力の需要が減る、もしくは原子力発電所の再稼働等でベースの供給量が増えると、出力抑制がかかる可能性が十分にあり得ることを示しています。出力抑制の実績がないからといって、安易に出力抑制はかからないだろうと高を括るのは危険な考えです。

(3)電力会社も出力抑制の軽減へ前向きに取り組んでいる

九州電力では出力抑制の実施実績が増え、それ以外の電力会社でも今後実施の方向を公表する一方で、出力抑制を軽減するために電力会社はさまざまな取り組みを行っています。

九州電力での取り組みの一部を例に、紹介していきます。

  • 地域間連系線の活用
  • オンライン制御の拡大
  • 火力発電所等の最低出力引き下げ
  • 出力抑制における経済的調整
  • 蓄電池併設による夜間売電の認可

地域間連系線の活用は、簡単にいうと他エリアの電力会社と電力を融通しあうことで、需給のバランスを最適化する方策です。たとえば、九州電力管内だけでは出力抑制が必要な場合でも、中国電力で需要が多ければそちらに余剰電力を流すことで出力抑制を回避できます。

2019年4月には、転送遮断システムという地域間連系線の安全装置を開発したことで、最大30kW万kWもの送電可能量を確保しました。

図

出所:九州電力

これ以外にも、旧ルール事業者で未対応の事業者のオンライン制御化への移行や、火力発電所等に設定されている最低出力55%〜80%を30%以下に引き下げるなど、さまざまな施策を検討・実施を進めています。

電力会社も、ただ単に出力抑制で太陽光発電の利用量を減らすのではなく、安定的な電力供給を守りつつ再生可能エネルギーを最大限に活用する方法を模索してくれているのです。

3.出力抑制のリスクを軽減するには

出力抑制が始まった当初は、JPEAや専門家たちのあいだでも形だけの制度で、実際に出力抑制が頻繁にかかることはないだろうといわれていました。

しかし、実際には上述したように九州電力ではすでに数十回も実施され、他の電力会社でも今後実施されることが表明されている状態です。そこで、出力抑制によって売電収入が減るリスクを最小限に抑えるためにできることを、いくつか紹介していきます。

(1)オンライン制御に対応させる

出力抑制の方法には、オンライン制御とオフライン制御の2種類があります。

オンライン制御は、電力会社からインターネット回線を通じてきた出力抑制指示を、自動でパワーコンディショナが出力を抑制してくれます。

オンライン

一方で、オフライン制御はインターネット環境を準備できない・したくない場合に、電力会社からのメールをもって、事業者が手動で発電を停止します。

オフライン

基本的には、運用的に効率面で有利なオンラインでの出力抑制が推奨されています。また運用面だけではなく、売電不能になる時間もオンライン対応の場合の方が、オフライン対応よりも少なくて有利になるよう設定されています。

しかしながら、旧ルールで出力抑制対応をした高圧500kW以上の太陽光発電事業者の方は、いまだオフライン対応の方が多いと調査結果が出ています。

調査

出所:九州電力「九州本土における再エネ出力制御の実施状況について

以下の九州電力の例でも、オンライン制御よりもオフライン制御のほうが制御量が多くなっていることがわかります。

グラフ

出所:資源エネルギー庁「再生可能エネルギー出力制御の 低減に向けた対応について」

オンライン制御に対応するためには、インターネット環境が必要なため準備には手間がかかりますが、上記の出力制御料の違いを見ればオンライン制御のメリットは一目瞭然です。

可能な限り、オンライン制御に対応しておきましょう。

(2)出力抑制の収入減を補う保険もある

出力抑制によって売電不能になると、その期間中に得られたであろう売電収入を損することになります。もちろん、電力会社や国からはルールにあるように上限期間内であればその売電収入の損失額の補填は全くありません。

そのかわりに、出力抑制保険なるものがあります。出力抑制保険とは、出力抑制補償といわれることもある、出力抑制によって損失した売電収入を補填してくれるサービスです。

出力抑制保険は多くの場合、免責される時間や抑制率といった条件が設定されています。その免責時間や免責抑制率以上の出力抑制がかかった場合にはじめて、保険会社から売電収入の損失分が補填される仕組みです。

たとえば、免責時間が年間20時間で設定されているとします。この場合、年間の出力抑制時間が30時間(6日間、1日5時間)であれば、免責時間の20時間を差し引いた20時間分の売電損失額を補填してくれるのです。

保障

免責時間や免責抑制率は、設備規模によって変わることもあります。また、保険の条件として補填の上限額や他サービスへの加入が必要な場合もあります。

管轄エリアの出力抑制の回数も踏まえて、加入すべきかどうかを検討しましょう。

関連記事:事前の対策必須!野立て太陽光発電に関するトラブル一覧

4.出力抑制のルールと対策の理解が太陽光発電の安定収益につながる

出力抑制は、電力の需給バランスを保つために必須な制度ですが、太陽光発電の売電収入の損失につながるものです。さらに、旧ルールから新ルールへ変更になったことで、すべての太陽光発電が出力抑制の対象となり、年間360時間に定められた無補償の出力抑制も指定ルールによって無制限になります。

現状での出力抑制の実施実績は、まだ九州電力のみですが、2019年度から2020年度にかけて他の複数の電力会社エリア内でも出力抑制が実施される可能性が高いことが示唆されています。

一方で、出力抑制保険等の軽減方法や、電力会社による出力抑制低減への積極的な取り組みもあります。ただ出力抑制を悲観するのではなく、ルールや対策をしっかりと把握して、太陽光発電の安定的な収益化を目指していきましょう。

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