力率制御は太陽光発電の利益率を下げる?力率について投資家が覚えるべきことは?

今野 彰久

著者 今野 彰久

スマートエネルギー事業部の部長です。
自身でも太陽光投資をしているため、投資する方の目線でのご紹介を得意としています。

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太陽光発電の投資計画を実行に移す上で、まず最初にやることは電力会社への申請や電力会社との電力の受給契約です。電力会社との受給契約が結ばれる前には必ず、パワーコンディショナの力率を制御するよう要請され、同意書を提出します。


大概の場合、施工会社が申請業務から電力会社との折衝までのすべての作業を行うため、そのようなやり取りが行われていることを知るオーナーはほとんどいません。しかし「力率の制御」と聞くと、MAXでの売電ができないのでは?と想像してしまいます。


ここでは力率について、また制御が求められる理由や制御することで損をすることは無いのか詳しく解説します。

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1.太陽光発電の「力率」は売電用電力の割合を示す

太陽光発電における力率を、分かりやすくいい表すなら「太陽光パネルが発電した電力のうち、売電用電力の割合」と、なります。そう聞くと「発電した電力がすべて売電できるわけではないの?」と、多くの方が思われるかも知れません。

その疑問は、電力の仕組みを知ることで解決できます。

(1)太陽光投資家なら覚えておきたい電力の仕組み

電力の仕組みが理解しやすいように、水道水に例えてみてみましょう。

電力は「電圧×電流」の式によって導かれます。水道水に例えるなら「電圧=水圧」「電流=水流」そして「電力=水量」です。水道の蛇口のひねり具合で水圧を調整し、水流と掛け合わせることで水量が決まります。これと同様に、電圧と電流の積が電力です。

図

理論上では、常に電圧と電流に同じ力が働いていれば、力率100%のまま電力が維持されます。しかし通常、太陽光パネルで発電された電力は、ケーブルや変圧器などさまざまな機器を経由します。

そして、電流がそれらの機器を経由すると電圧との間に時間差が生じるため有効に使える電力の割合が下がってしまう、つまり力率の低下現象が起きるのです。

この現象から分かるように、太陽光パネルが発電した電力が、すべて売電用の電力として有効利用される訳ではないのです。

(2)太陽光発電施設の有効電力が制限される「力率の一定制御」

また、太陽光発電の力率を理解する上で、大事な技術的な要素に「無効電力」や「有効電力」「皮相電力」というものがあります。

電力

無効電力とは、送電線内を走る電力の電圧上昇を防ぐために電力会社が意図的に流している電力です。無効電力は家庭や工場などで実際に消費される電力ではなく、電力会社と太陽光発電のシステムの間を常に行き来しています。

それとは逆に、太陽光発電のパワーコンディショナから電力会社の送電線へ送られる売電用の電力を「有効電力」と呼びます。

これら無効電力と有効電力を合わせた電力を皮相電力と呼びます。力率とは、皮相電力に対する有効電力の割合です。そのため、力率が高いほど売電量も高くなるのです。

ただし、電力会社からは太陽光オーナーとの電力の受給契約前に、必ず有効電力の供給を制限するよう求められます。これを「力率の一定制御」と呼びます。

2.太陽光発電の運転に力率はどう影響するのか?

パネルが発電した100%の電力が、そっくりそのまま売電できないことは理解できたと思います。

しかし、悲観するほどの電力量が削られるわけではありません。設備の仕様や条件にもよりますが、見込まれる力率の低下はパネルからパワーコンディショナ間で数パーセント程度。売電額に大きな影響をおよぼさないので心配はいりません。

力率低下をフォローする方法はありますが、設備やケーブルなどの資材費が増幅してしまうため、おすすめはできません。それよりは、可能な範囲でパネルの設置枚数を増やして過積載で運転したほうが賢明といえるでしょう。

(1)パワーコンディショナの力率制御による影響は?

一方で、電力会社が要請するパワーコンディショナの力率制御は、太陽光発電の運転にどのような影響があるのでしょうか?

一般的に、電力会社はパワーコンディショナの力率を90%前後で制御設定するよう求めてきます。

仮に、49kW/hで認定をうけた低圧の太陽光発電設備で、パワーコンディショナの力率を90%に設定したとしましょう。そうすると、49kW/hの90%つまり44.1kW/hまでしか売電ができない計算になります。5kW近くも売電できないなんて、何だかとても損をしているように感じますね。

(2)力率制御は利益にほとんど影響しない

しかし実際のところ、それほどの損失は生じていないのが事実。なぜなら、力率が90%に制御されるのは、あくまで49kW/hを超える瞬間に限られているからです。

既にご存知かも知れませんが、どの太陽光発電設備でも年がら年中、日がな一日に最高の発電がされている訳ではありません。日射量が多くなる4月~6月も、最高の発電力を発揮するのは日照条件がばっちり合った一部の時間帯に限られます。

このようなことから、電力会社の要請に従って力率を制御しても、それほどまでに売電額に影響をおよぼさないことが理解できると思います。

3.なぜ電力会社は力率の制御設定を要請するのか?

それでは、なぜ電力会社はパワーコンディショナの力率を制御するよう、要請してくるのでしょうか?それには、とても重要な理由があります。

(1)電圧の上昇を防止するための対策

引用

出所:東京電力パワーグリッド「太陽光発電設備における低圧パワーコンディショナ(低圧PCS)への 力率一定制御機能の採用について

上記は東京電力から、50kW未満の低圧発電設備を計画しているオーナーに向けた文書の抜粋です。力率の一定制御を要請したものですが、文頭に「配電系統の電圧上昇が懸念」とあります。

そもそも電流は水と同様に、電圧が高いところから低いところへ流れる性質があります。そのため、太陽光発電設備からの電力は、送電線の電圧よりも高くなければなりません。しかし、同じ系統につながるすべての発電所から、MAXの電力量が流れ込んでしまうと送電線の電圧が上昇してしまい、安定して電力を受け入れることができなくなるのです。

(2)電気事業法による取り決めも存在する

また、送電線の電圧に大きな変動があると停電などの事故を発生させるといった理由から、電気事業法によって決められた範囲の電圧をキープするように定められています。

こうして見ると、電力会社によるパワーコンディショナの力率の制御要請とは、法令を遵守しつつ、同じ系統において1箇所でも多くの太陽光発電の電力が売電できるよう、電力会社が出した優れた対策案ということが分かります。

4.電力会社や地域によって要求される力率制御の数値は異なるのか?

全国各地にある太陽光発電設備は通常、発電設備を設置している地域を管轄する電力会社(一般電気事業者)と受給契約を結びます。国内の電力会社は、北は北海道から沖縄まで10社。それぞれ独立した民間事業者ですが、電力需給に関しては電気事業法に則った多くの共通ルールが存在します。

ただし、太陽光発電の申請方法や系統連係までの流れなどには若干の違いがあります。また、太陽光発電設備が飽和状態の地域を管轄する電力会社は、送電線の電圧上昇の問題に対してとてもナーバスになっていることも事実です。

各電力会社によって要請する力率の一定制御に違いはあるのでしょうか?

表

(1)低圧太陽光発電設備は力率95%

2017年3月8日に、日本電気技術規格委員会による系統連係規定が、電力会社に向けて定められました。

この中の「電力品質確保に係る系統連系技術要件ガイドライン」に、10kW以上50kW未満の太陽光発電設備、いわゆる低圧連係される太陽光発電のパワーコンディショナの力率を95%に設定することが盛り込まれたのです。これを受けて全国の電力10社は、一斉に低圧の太陽光発電を新規ではじめようとするオーナーに対して、低圧パワーコンディショナの力率を95%に設定するように要請し、今もその数値に変更はありません。

図

出所:日本電気技術規格委員会「系統連系規程

それまでは、太陽光発電設備の普及率に大きな地域差があったため、各電力会社によって要請する力率の数値は様々でした。しかし、太陽光発電投資が活況を呈した2015年から2016年に、全国各地で送電線の圧力上昇が重要課題となったことで共通のガイドラインが設けられたのです。

(2)高圧連係で要請される力率制御は電力会社との協議で決まる

上記の説明から分かるように、低圧連係に関しては、パワーコンディショナの力率を95%に一定制御することが求められます。しかし、高圧連係や特別高圧の連係に関しては、パワーコンディショナの力率に対して、特別な規定は設けられていません。

つまり、高圧連係は低圧連係と異なり、電力の容量が大きいため周辺に与える影響を考えながら別途で協議する方式をとっている電力会社がほとんどなのです。

とはいうものの、これまでの実績でみると、北海道電力や東北電力、中部電力の管轄で高圧連係を予定する場合には、多くの地域で95%の力率値が要請されているようです。逆に、太陽光発電の高圧連係が激増した東北電力や九州電力では、80~85%の力率値が要請される地域も多くみられます。

東京電力パワーグリッドと関西電力では、高圧連係を申請するオーナーに対して、パワーコンディショナの力率値を90%として一定制御で要請しています。高圧連係で一定制御の力率値が公表できる理由として、高圧連係を希望するオーナーが多い反面、電力を消費する需要家が多いことが挙げられます。

ただし、これはあくまで両社が算出した基準値とされているので、設備を設置する予定の地域によっては90%未満の設定が要請される可能性も文書内では示唆されています。

(3)力率の制御設定が要請されない地域はあるか?

太陽光発電オーナーであれば誰もが、発電した電力を100%で売電したいと思うはずです。では、制御設定をせずに連係ができる場合や地域はあるのでしょうか?結論からいうと、100%の力率で連係はできません。

なぜなら、前述したように力率の制御設定は、電力会社の送電線の圧力上昇を阻止する対策であり、1基でも多くの太陽光発電設備を連係させるために必要な対策だからです。

もしも制御設定しない力率100%のパワーコンディショナばかりから連係されれば、間もなく送電線の圧力がピークに達してしまい新規で連係を希望する申請者は受け付けてもらえなくなります。それどころか、電力会社によって変電所などの大掛かりな設備変更が余儀なくされ、それにより連係希望者に多額な費用負担が要求される事態になるでしょう。

ただし、2017年3月以前で既に力率100%で系統連係されている発電設備は、多く存在しています。

5.太陽光発電の力率制御に要請に同意しない場合どうなる?

電力会社によるパワーコンディショナの力率制御は、あくまで「ご協力のお願い」というスタンスでの要請です。親方日の丸といわれる電力会社ですが、強制的なスタンスではありません。

では、要請を受け入れずに申請が受理される可能性はあるのでしょうか?通常では施工会社や電気工事会社に申請が任されており、どちらもスムーズな連係を目指します。そのため、これまでに力率の制御設定に同意しなかった例は耳にしたことはありません。

もしも要請に同意しないなら、連係が不可能と判断され申請がなかなか受理されない、もしくは制御設定をしなかったことが原因で、停電や事故が発生した場合は責任をとるよう、特別な契約を結ばされるのではないかと予測されます。

停電によって多くの世帯や工場、商業施設などに与えた損害や、復旧に要した費用などが損害賠償として請求されることを考えるとゾッとしますよね。電力会社は電気事業法を遵守するため、また安全で安定した電力の供給を担っていることから、それ相応の手段をとってくることは十分に考えられます。

6.力率の制御設定は誰がどうやるの?

電力会社の要請に従って、パワーコンディショナの力率は誰がどのようにして制御設定するのでしょうか?

実は、日本電気技術規格委員会から2017年3月に出されたガイドラインにともない、低圧連係用のパワーコンディショナは、ほぼすべてのメーカーによって力率95%に設定して出荷されます。そのため、わざわざ施工会社が設定を行うことはありません。

高圧連係に用いられる大型のパワーコンディショナでは、タッチパネル画面で容易に力率の設定操作ができる製品がほとんどです。多くのメーカーは、あらかじめ必要な力率値の情報を入手し、設定を終えて出荷してくれます。納品後に現場で設定する場合は、メーカーもしくは代理店の技術スタッフが派遣されて設定作業を行います。

関連記事:太陽光発電スタートまでの手続き2つをステップバイステップで解説

7.力率の重要性を理解してスムーズに太陽光発電を始めよう

先に述べたように、パワーコンディショナから送電線への系統連係に、力率の制御は非常に大きな意味があります。各電力会社は、できるだけ多くの連係希望者の期待に応えるため、多少なり太陽光オーナーにとって不利であろう制御設定を要請している訳です。

しかし、長期的な運用の観点からみると、力率の制御が必要な対策であることは理解できたと思います。技術的な知識以上に、電力会社とうまく手を取り合うことも、太陽光投資を成功させる術であることを忘れないでください。

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